AIに「決めたこと」を残させていた。足りなかったのは「やめたこと」だった
うちのAIは、会話が終わるたびに「今日決めたこと」をメモに書き残しています。
次の会話でAIがそれを読み返すので、同じことを二度説明しなくて済みます。
先日、そのメモを全部数えてみました。
1,600件の「決めたこと」
2026年10月時点で、残っていた会話の記録は1,665件。
そのうち1,633件に「決めたこと」が書いてありました。
ちゃんと残っている。
そう思ったのですが、もう一つ数えたところで手が止まりました。
「どの案をやめたか」まで書いてある記録は、437件。4件に1件ほどでした。
(「やめた」「見送った」「〜ではなく」といった言葉で拾った、ざっくりした数です)
残りの4件に3件は、「A案に決めた」だけです。
B案をやめた理由は、どこにもありません。
理由の無い決定は、もう一度会議を呼ぶ
たとえば最近、社内の作業ボードの使い方を決めました。
メールを1通ずつボードのカードにする案と、「メールは返信すれば終わり。返信だけで終わらない案件だけボードに上げる」案。
話し合って、後者に決めました。
記録には、こう残っていました。
「返信だけで終わらない案件だけボードに上げる」
間違ってはいません。
でも、なぜ1通ずつカードにする案をやめたのかが書いてありません。
理由は「メールとボードで同じ件を二重に管理することになるから」でした。
これが残っていないと、3か月後に誰かが言い出します。
「全部カードにした方が、漏れが無くて良くないですか」
AIは前の会話を覚えていません。読めるのは、書いてあるものだけです。
理由が書いていなければ、AIはその提案に「良いですね」と乗ってしまいます。
そして、一度終わった議論をもう一度やることになります。
決めたことは1行で足ります。数か月後に効くのは、やめた理由の方です。

うまく残っていた1件
逆に、よく残っていた記録もあります。
新しい講座の、決済の会社をどこにするか決めたときのものです。
その記録には、4つの欄がありました。
- 決めたこと:決済はA社にする
- やめたこと:B社への同時申し込みはやめる。ただし、始めて3か月で解約がある割合を超えたら、B社をもう一度検討する
- 理由:販売開始に確実に間に合うのはA社だけ。B社の良さは、まだ仮説の段階
- 次の一歩:私が決済の商品を作り、申込のURLをAIに渡す
ここまで書いてあると、数か月後に「B社の方が良かったのでは」と言われても、すぐ答えられます。
「やめた」だけでなく「こうなったら考え直す」まで書いてあるので、蒸し返しではなく見直しになります。
この記録には、もう一行ありました。
「以前の私の判断と、同じ結論です」
前の判断と比べて、向きが同じか逆かを書いてくれていたのです。
1回分の決定だけを見ても、向きが変わったかどうかは分かりません。前の記録と並べて、初めて分かります。
記録係に、決めさせてはいけない
ただ、この1件には反省もあります。
実はこの決済の件、夜のあいだにAIの担当が比較表を作り、そのまま結論まで出していました。
翌朝、私が中身を見て「それでいい」と追認しました。
結論は正しかった。
でも、本来は私が決めることです。
記録係のAIの仕事は、残すことと、前の決定と向きが変わったら知らせることまでです。
どちらにするかを決めるのは、社長の仕事です。
ここを曖昧にすると、記録そのものが信用できなくなります。
記録係のAIに渡した決まり
それで、記録を担当するAIには、次の決まりを持たせることにしました。
1. 4つの欄で残す
決めたこと・やめたこと・理由・次の一歩。理由を一番丁寧に書く。「どの案と比べて、何を優先して選んだか」まで書く。
2. 「やらないと決めた」と「決めていない」を分ける
比べたうえでやめた案は、検討しなかった案とは別物です。やめた案も必ず残す。
3. 言い換えない
決めた人の言葉の要点を、そのまま使う。記録係が言葉を整えると、誰がそう決めたのか分からなくなります。
4. 前の決定と逆向きなら、書き添える
書く前に、同じ話題の過去の記録を読む。逆向きなら、記録はしたうえで「◯月◯日の決定と逆です」と知らせる。止めはしない。決めるのは社長です。
5. 過去の記録は書き換えない
考えが変わったら、前の記録はそのまま残し、新しい記録を足す。前の記録を直すと、なぜ変えたのかが消えます。
6. 決めたことが曖昧なら、聞き返す
推測で埋めずに「決めたことはどれですか」と聞く。聞き返されたら、まだ決めきれていないという合図です。
明日から使える、頼み方の型
専用のAIを作らなくても、今日から試せます。
何かを決めたら、AIにこう頼んでください。
> 今日決めたのは〔A案〕。やめたのは〔B案〕で、理由は〔◯◯だから〕。
> 決めたこと・やめたこと・理由・次の一歩の4つに分けて、記録に残してください。
> 前に同じ話題で決めたことがあれば、それと同じ向きか逆向きかも書き添えてください。
「今日の会議を記録しておいて」とだけ頼むと、返ってくるのは決まったことの箇条書きです。
差を生むのは、AIの賢さではありません。何を残すかを、頼む側が先に決めたかどうかです。
まとめ
- AIは前の会話を覚えていない。次に届くのは、書いたものだけ
- 「決めたこと」だけの記録は、数か月後に同じ議論を呼ぶ
- 残すのは、決めたこと・やめたこと・理由・次の一歩の4つ
- 記録係は決めない。向きが変わったら知らせるところまで
うちの記録も、まだ4件に3件は「決めたこと」だけです。
今日から、やめた理由まで残すようにしました。
決めたことを社内に知らせるときの書き方は、こちらに書いています。
決めたことをチームに伝えるとき、AIに「なぜ」まで書かせている